インサイダー取引のトレーニング

ちょっと紛らわしいタイトルだが、いかにしてインサイダー取引で儲けるかというトレーニングではなく、自社株の売買や未公開情報の扱いに関して、どうしたら米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission, SEC)に訴えられるような事態を防ぐか、という指導を受けた。
インサイダー取引と聞くとどこかの社長とか有名人など特別な存在の人達が、「近々あの会社はライバル社を買収する。」とか「とんでもない新製品を開発した!」などの内部情報をこっそり受け取り、それを家族や親戚に流して株の売買を行いがっぽり儲ける、あるいは大損を防ぐといったイメージがあり、自分には関係のない話だと思っていた。 これは公開情報だから問題ないと思うが、自分が勤めている会社もライバル会社を買収し(そのうち)合併する予定なので、このようなトレーニングを会社側が準備したのかな?
講師は実際にインサイダー取引を扱う弁護士の女性。具体的な例を含めながら素人にも分かりやすく説明してくれた。彼女の目的はとにかく我々社員に、いかにインサイダー取引が一般の社員にも身近なことで、いかに怖いか、という意識を埋め込む事だったのだろう。うむ、すっかり埋め込まれてしまった。。。
  
例えば、旦那さん(Aさん)が会社で極秘プロジェクトでとある会社の買収に関する調査をまかされた。ものすごく忙しくなりそうなので、家に帰った後奥さんに「ハニー、これからしばらく帰るのが遅くなる。買収に関する極秘プロジェクトのメンバーに選ばれたからね。」と伝える。旦那さんはいつも「仕事関係の事を他の人に言わないようにね。」と言ってたのだが、旦那が仕事にかかりっきりになると聞いた奥さんが彼女の妹に「うちの旦那これからしばらく忙しいのよ、買収に関する極秘プロジェクトのメンバーに選ばれたから。ねえ、映画でも観に行こう。」と電話する。それを聞いた妹さんはAさんの会社の株を購入。数週間後に買収が発表され妹さんは$20,000ほど儲けた。
  
この例の場合一番罪に問われるのは奥さん。妹さんはおそらく儲けた金額の3倍くらいの罰金を払うはめになる。ここの話のミソは、旦那さんは普段から奥さん(あるいは他の家族)に仕事関係の事は他人に言わないようにと念を押していた事。万が一奥さんが「旦那はそんなこと言わなかった!」と裏切っても、他の家族等から証言がとれれば弁護しやすいと言っていた。ただ、このような事件で弁護士を雇うとそれだけで1千万から2千万円程度かかるらしい。ひょえ〜。
  
あるいは、知り合いが「よ〜、久しぶり。仕事どうだい?会社の調子はいいか? お前の会社の株買った方がいいかな〜?、ははは。」なんていう会話はごく一般的。こちらも調子を合わせて「おう、調子いいぜぇ〜。うちの株どんどん買ってくれよ。そのうち上がるぞ〜、ははは。」なんてこといつも言っている。
ところが、これを真に受けた知り合いが株を購入し、その数日後に自分も全く知らなかったライバル会社の買収が発表され株価が高騰。知り合いに感謝されまくり、一杯おごってもらいめでたしめでたし。。。と思っている間に、証券取引委員会はこの前後に株を売買した人をリストアップし、インサイダーに近い人を片っ端から当たって行くらしい。
確かに本人は買収に関して何も知らなかったのだから罪には問われにくいのだが、当然のごとく犯罪人扱いを受け弁護士を雇って無実を証明する必要性が出てくるらしい。はい、1千万から2千万円はもちろん自腹、会社は払ってくれない。怖〜い。
自社株について聞かれたら、とにかく「いやぁ〜、それは自分で判断するしかないよ〜。」と言って逃げろとのご指導。
  
まあ、モラルとしてはとにかく会社の機密や株の売買に関する会話は慎重に、と言う事でしょう。う〜ん、うっかり冗談も言えないな。